コジマ技研工業の小嶋實会長の訃報。

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中小企業の取材先は意外と冷淡でしたが。

2020年11月15日、神奈川県相模原市にあるコジマ技研工業の会長、小嶋實氏が亡くなられた。87歳であった。この訃報は、亡くなった翌日に会社から私の事務所にファックスで送られ、早い時期に知ることができた。
コジマ技研工業は、食肉に竹の串を刺して焼き鳥を自動的に製造する串刺し機を製造している企業で、国内での串刺し機のシェアーは1番であろう。まさに隙間商品といえる商品である。2021年4月26日に、NHKの「逆転人生」の番組で「頑固おやじが開発 世界が驚いた串刺し機」とタイトルして1時間の特集で放映されたのでご存じの方も多いのでは。
私は串刺し機のユニークさに目を付けて、1999年7月27日に会社を訪問して取材したことがある。当時は、会長を含めて3名で会社を運営されていて、典型的な零細企業であった。その際に取材した記事は「下請けやめてニッチをめざせ!」に掲載し、開発の経過を詳しく説明してある。
私が驚かされたのは小嶋實氏が亡くなられたことではなく、過去の取材企業から訃報が届いたことであった。取材したのは20年も前のことであり、その後は見本市で顔を会わすことはあっても特に深い接触はなかった。小嶋氏とはその程度の接触であり、顧客でもないためすっかり忘れられているものと考えていた。しかし、20年前に取り交わした私の名刺をデーター化して保存されていたのであった。さらに、そのデーターにより、本来は無関係の私にまで訃報を流された心意気に驚かされたのである。
私は今までに隙間企業を思われ中小企業を300社程度取材してきた。いずれも従業員は50人以下の中小企業ばかりであった。小さな企業であるから、人情のある町工場である、という訳ではなかった。私の取材では、必ずしも気持ち良く聞き取りすることができた企業ばかりではなかった。取材に伺った企業によっては、あからさまに厭味な言動をしてきた社長に出会ったこともあり、企業の方針というよりは社長自身の個性によるものであろう。マスコミ慣れしていて、横柄な態度をする社長もいた。全体から判断すると、私の取材の目的を理解して協力的であったのは2割程度であり、他の企業はその時だけの付き合いという覚めたものであった。
そもそも、隙間商品を製造している企業の取材、と言っても、その企業にとっては「無料で雑誌に掲載してくれて、多少は宣伝にはなるだろう」と想定したのではなかろうか。このため、取材後に礼状を発送しても大半の企業からは返答は無かった。会社が小さいから大企業に比べて人情や心遣いがある、というのは先入観であり、中小企業といっても利益につながらないことには関心が無かった。
そのような体験を続けてきたため、コジマ技研工業からの訃報には感心させられた。中小企業といえども、細く長く継続するためには無駄なような心配りをしなければならない。今回送られてきた1枚のファックスで、企業が根底に持つ心行きを感じられた。
写真は、見本市会場に展示された串刺し機と、亡くなられた小嶋氏の遺影です。
2021年6月3日