連載第1回 ニッチ企業概論

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連載で初めてのため、ニッチの解説をしました。(長文注意)


【月刊 信用組合 4月号 第1回】
●ごあいさつ
今月から、「ニッチでリッチ」を連載することになりました。このタイトルには、ニッチ(隙間)のマーケットで販売する商品を製造して、貴方の会社もリッチ(金持ち)になりましょう、という期待を込めました。
「ニッチ」とは耳慣れない言葉ですが、元来は壁に穿った小さな窪み、という意味でした。それが転じて現在では、小さな企業、狭い業界を指すことが多くなりました。新聞などの記事には、ニッチ産業、ニッチ商品、ニッチ戦略のような用例があります。このシリーズでは、小さなマーケットに向けて特殊な商品を製造している、目立たないが健全な経営をしている零細企業をニッチ企業と呼び、彼らが成功した要因を分析します。
ニッチ企業は製造業の分野に多く見かけられますが、生産工場を持った企業だけに狭く限定することはありません。昨今は零細企業であっても設計、企画を自社で行い、製造を他社に委託するファブレス会社も珍しくありません。資金力があって販売ルートを確保しているのであれば、企業の規模は小さくとも委託生産した商品を自社で流通させることができるからです。このため、このシリーズは製造業に関わっている方だけではなく、流通業やサービス業に従事されている方もお読み下さるようお願いします。
●日本の製造業の現状と将来
新聞紙面などではトヨタや日産が史上最高の利益を上げていると報道していますが、それはほんの一部であり、国内の大部分の製造業は商品が売れないため青息吐息です。その原因は東南アジア、特に中国から安い商品が怒濤のように押し寄せているからです。ロケットや核弾頭は輸出してきませんが、衣類、雑貨などの軽工業品を始めとしてテレビ、パソコンなどの電気製品までのあらゆる消費財、耐久財が中国から輸入されてきています。少し前までは品質が劣っていたのですが、技術進歩が進んで国産と変わらぬ品質となってきたので、消費者は安い中国製品を選ぶことになります。
大量生産労働集約型の製造業では人件費が大きなコストとなります。中国では日本の二十分の一の人件費であり、同じ品質、同じ機能の商品を安く製造できるのは当たり前のことです。日本の企業も安い人件費に魅力を感じて、国内の工場を閉鎖して中国に乗り込んでいます。現地の日系工場から安い商品が輸入されるため、国産品は売れずさらに悪循環となっています。
福助、世界長、カネボウといった老舗でもあっても軒並み左前となり、それぞれが産業再生機構の傘下に入りました。大企業でさえこんな有り様ですから、大企業の下請けだった中小零細の町工場は倒産や整理によって消えています。このような社会の変化に対して、日本の中小零細企業は進路を転換しなければならない時期にあります。だが、どのような方策を立てたら良いか、先が見えないのが実情でしょう。
●ニッチは零細企業の最後の砦
全ての中小零細企業が外国製品によって苦しんでいる訳ではなく、元気の良い中小零細企業もあちこちに見られます。それらの多くは大企業が手を出さない(出せない)隙間商品を製造しているニッチ企業です。隙間商品とは、年商が小さくて余り汎用性の無い商品のことを指します。売上高が少ないのですが利益率は非常に高く、場合によっては価格の九十%が粗利のこともあります。
利益率が高いのは、ほとんどのニッチ企業が業界でオンリーワン企業であることが多く、市場の要求とは裏腹に価格を自由に設定できるからです。また、隙間商品はプロが必需品として使うものが多く、機能の特殊性や信頼性のために高くても納得して購入してくれるからです。
私は、これから日本で生き残ることができる中小零細企業は、モノ造りに特化したニッチ企業ではないか、と考えています。バブルの時代には、投資やリゾートなどの第三次産業が持て囃されましたが、そんな浮ついた企業は今となっては跡形もなく消えています。人間が生活していれば必ずモノを消費します。生活に関わりのあるモノ造りであれば、時代や景気に左右されず、企業は継続することができます。モノ造りは産業の根幹をなすものであり、地味ではあっても決して廃れることはありません。
モノ造り企業の長所は、都会でなくとも地方で起業できることです。昨今のITの発達により、通信インフラが整備されてきていて、全国どこでも同じ料金で電話をかけることができるようになりました。また、製造した商品は宅配便により、全国どこでも翌日には配送させることができます。地方に在住する零細企業であっても、都会から遠距離であることは昔ほどのハンディとはならなくなりました。地方の零細企業でも、隙間商品をヒットさせたなら、大きな利益を得られる夢が持てるようになりました。
●ニッチ企業の取材
ニッチ企業は景気の影響を受けることが少なく、高い収益性を保っています。しかし、新聞、経済誌などでは滅多に紹介されることはありません。マスコミなどでニッチ企業が社会一般に知られてしまったら、儲かるシステムを競争相手に教えることになり、オンリーワンとしてのメリットが無くなるからです。また、マスコミは、経営が優れていても小さな零細企業を取材したがりません。大量の広告により知名度が高く、誰でもが知っている大企業を取り上げた方が読者受けするからです。
次回から、世間には知られていないニッチ企業を取材し、どのように隙間商品と出会って成功したか、を詳しく報告します。私が取り上げる企業は、珍しい商品や面白い商品を製造している企業ではなく、次の条件に適合していることが必要となります。
①一種類の商品で年間の売上高が三億円以下である。この程度の売上高であれば、市場が狭くて大企業が乗り込んでくる恐れがないからです。
②従業員が五十名以下である。この人数の中小零細企業が国内で数が多く、同じ規模の企業が経営方針を参考にするための事例としては一番相応しいからです。
③オリジナルの完成品を製造している。部品の製造ではなく、自社ブランドの商品を製造していることが利益率を高めることができるからです。
③職人技で製造されたものではない。職人が辞められたなら商品が製造できなくなるのでは企業が永続しません。ローテクで誰でもが製造できる商品でなければなりません。
皆様の会社をニッチ企業として転身される際に、私の記事が成功のためのヒントとしてお役に立つことを期待しています。