2005年05月07日

●呆れた社長

中小零細企業の社長の多くは朴訥で正直であった。
しかし、そうでもない社長にもであった。

 私の取材では中小零細の製造会社ばかりであり、技術系の社長から話を聞くことが大半であった。モノ造り一筋の人生を経た人が大半であり、コツコツと堅実に会社を経営してきた人であった。このような社長はどちらかと言えば朴訥であり、会社創設から現在までの道のりを正直に説明してくれた。私の質問にも丁寧に答えてくれた。このような取材では、帰ってきてからその内容をまとめて一つの物語に作成する際に、その根幹がスラスラと続けることができる。つまり、取材で聞いてきた話の筋道から文章を作成するのが、何のよどみもなくきれいにまとめることができる。
 だが、取材してきた社長の中には、文章を構築する際に途中でどうしても引っ掛かって、上手く文章が続かない場合がある。これは何が原因かと言えば、その社長が取材の途中で嘘を言っているのである。2時間位の取材の間に、途中で大きな嘘が混ざり、文章の前後で辻褄が会わなくなる現象である。あまり数は多くなかったが、平気で嘘を言う社長もいた。
 チタンのナイフを製造していた社長は、最初から最後まで過去の自慢話が続いた。私の取材の目的である、隙間商品に出会ったキッカケ、製造の困難さ、販売の工夫などには答えようとはしなかった。社長からは、「俺はいかに儲けてきたか」「他人が気の付かない時から目をつけたのが優れていた」などの自慢ばかりであった。この当時は取材に慣れてなかったので、相手の機嫌を悪くしてまでも疑問点をしつこく質問することはできなかった。こちらの聞きたい点は、固いチタンからどのようにナイフを製作するかであった。取材から戻ってきて、録音テープを数回聞き返すと、おぼろげながら製作過程を推測することができた。粉末状のチタンを型に入れてプレスし、焼結してナイフの形に加工するのである。その形成の際に、刃先と背中側では粉末チタンの種類を変え、切れ味を良くすると同時に粘性を持たせているのが特徴であった。この推測が正しいかどうかをその社長に問い合わせたところ、社長からは掲載拒否の返事が戻ってきた。私の推測が当たっていて、外部には秘密の製造工程のようであった。社長が自慢話ばかりをしている内に、本人が気がつかないで秘密にしておくべき製作過程を漏らしていたのであった。多分社長はビックリしたのであろうか。それとも、ど素人なので製作過程は判らない、と思ったのであろう。何れにせよ、社長の考えていた取材は、彼が一代で築いた会社の自慢話を掲載してもらうことであったようだ。この取材はボツとなった。
 もう一人の取材は、溶解炉のメーカーの社長であった。このメーカーの溶解炉は業界では評判の良いものであったが、社長自身は不愉快な人間であった。取材で学歴を問うと、「歯科大学卒で歯医者だったが、他人の口を覗くのが嫌で会社を興した」と返事した。しかし、卒業した年度からしたら歯学部を卒業できるような年齢ではなく、辻褄が合わない。関係機関に問い合わせたところ、その大学に付属した歯科技工士養成所の卒業であった。歯科医師ではなく技工士だったのである。現在は功成り遂げて業界でもトップの一国一城の主である。技工士であることを恥じる必要は無いはずである。堂々と過去の業種を述べれば良いはずだが、学歴を詐称していた。そこまでして飾る必要はないと思うのだが、飾りたくなる性格なのだろうか。この社長と取材しているとき、社長から私を試すような言葉があり、不愉快であった。
 中小零細であっても、業績を上げているのであり、小さい会社といっても恥じる必要もなければ飾る必要もない。もっと自然体で自分の過去を話すべきではなかろうか。
2005年5月7日

Posted by hibi at 2005年05月07日 22:17
トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.nichederich.com/cgi/mt-tb.cgi/57

コメント